家庭で出る食品ロスの削減と、災害時に必要な備えは、どちらも「大事だと分かっているのに、日常では後回しになりやすい」テーマです。特に、賞味期限の捉え方や停電・断水時の生活の組み立て方は、普段の感覚と非常時の現実にギャップが生まれやすい領域です。
停電・断水時に本当に困るポイントは、食料や水だけではありません。また、非常時は家庭ごみの出し方も変わります。本インタビューでは、食品ロスと災害時の備えについて大正大学の岡山朋子教授にお伺いしました。

大正大学 地域創生学部 地域創生学科 教授
岡山朋子 / Tomoko Okayama
【プロフィール/略歴】
大正大学地域創生学部地域創生学科 教授
静岡県生まれ
名古屋大学大学院環境学研究科修了、博士(環境学)
専門は廃棄物管理、循環型社会政策論
食品ロス・食品廃棄物管理、災害廃棄物管理などを研究
名古屋を中心とした食品リサイクルの取組「おかえりやさいプロジェクト」のリーダー
『ごみについて調べよう1〜3』あかね書房(2019)を監修
家庭の食品ロスは「未開封」「食べ残し」が多く、期限の誤解が捨てる行動につながりやすい
FXインフォメーション合同会社(以下FXI):家庭の食品ロスの多くが賞味期限切れによるものだと聞くと、日々の台所や冷蔵庫の中で、特に見直すべき点はどこだとお考えですか?
岡山氏:まず、家庭の食品ロスは「自分はそんなに出していない」と思われがちですが、実態を見るとそうではありません。可燃ごみの中で生ごみはだいたい4〜5割です。その生ごみの中で、食品ロスが概ね40〜45%程度を占めます。
食品ロスの内訳としては、食べ残しが35〜45%程度、未利用食品が55〜65%程度あります。さらに未開封のまま捨てられる食品も15%程度あります。ウインナー、ヨーグルト、納豆、お菓子などが、封を開けないままごみになることも少なくありません。
しかも、それらのうち期限が前日までに切れていたものは15〜20%程度で、逆に言うと8割以上は期限が切れていない状態で捨てられています。ここから見えてくるのは、賞味期限・消費期限を「捨てる日」と受け止めてしまっている人が多い可能性です。
賞味期限は「作りたてのおいしさの保持期間」です。賞味期限が過ぎたからといって、すぐに不味くなるものではなく、消費期限が過ぎたら、即食べられなくなるわけでもありません。まずは期限の意味を正しく捉え、早めに使い切る・食べ切るという行動が重要です。
FXI:未開封で、しかも期限が切れていない食品が多く捨てられているというのは、食品ロスの印象が変わります。期限の受け止め方そのものを見直す必要がありますね。
岡山氏:そうですね。賞味期限がまだ先でも、手を付けないまま廃棄されるお菓子が多いと先ほど言いましたが、これはひょっとするとお土産や贈答品で、自分で買ったものではないのではないかと推測されます。
また、開封済みで食べ切れずに捨てられる食品も多いです。食パンを数枚だけ食べて残りを捨てるなど、未開封には入らない未利用食品も多く出ます。作り置きした料理を保存したまま食べずに捨てることもあるでしょう。家族分を作ったのに、誰かが食べなかったという場合も、翌日の食事に回すなどして消費して欲しいです。もちろん、多くの家庭ではそうしていると思いますが。
生卵もよく捨てられますが、生卵についているのは賞味期限です。日本では生で食べられる保持期間として2週間に設定されていますが、国によっては4週間の表示もあります。生卵は冷蔵で比較的長く持ちますが、ゆで卵にすると途端に日持ちは短かくなるため、卵についてだけは、熱を加えれば保存できるという考え方を変える必要があります。
FXI:未利用廃棄や食べ残しの廃棄を減らすには、期限の意味の理解と「使い切る前提」の行動が鍵になりそうです。未利用のまま捨てられてしまう食品を減らすために、買い物の時点で意識すべきことは何ですか。
岡山氏:買い物時点では、次の買い物までにどう使い切るかを考えることが一番大切です。野菜でも加工品でも、パッケージ品でも同じです。また、二重買いを防ぐため、買い物にいく前に冷蔵庫内にある食品を確認しておくと良いでしょう。
買い物は「次回までの使い切り計画」が基本で、計画崩れを前提に冷凍・整理で調整することが大切
FXI:防災のために備蓄した食品や水が賞味期限切れで捨てられてしまう現状について、家庭ではどのような考え方で向き合うことが現実的だとお考えですか?
岡山氏:災害備蓄を考える場合、多くの人はまず水と食料を思い浮かべます。日本では地震が多く、停電や断水も起こり得るので、備える意識自体はとても重要です。
ただ、備える量の目安としては、まず3日分。地域によっては7日程度まで想定する考え方もあります。まず、水は飲料として一人一日1.5〜2リットルあれば十分です。3日ならその分を基準に備えます。
十年保存水については、期限を過ぎても品質そのものは実は変わりません。期限を過ぎても、すぐ飲めなくなるという性質ではなく、容器の性質上わずかに蒸発して量が減ることがある、という理解です。
食品も同じで、賞味期限は捨てる期限ではありません。まずこの認識を共有したいです。保存食だけを特別に抱えるより、普段食べるものを少し多めに置いて回していく考え方、いわゆるローリングストックが現実的です。缶詰など、そのままでも食べられるものは非常時も役立ちます。
FXI:特別な保存食だけでなく、日常の食品を回す考え方が現実的ということですね。
岡山氏:はい。しかし、家庭ごと「食事」の差は非常に大きいです。どのような食品が好きで、どのような食生活を送っているかは、百世帯あれば百通りで、年齢や家族構成だけで行動を一括りにできません。ですから何をどのようにというアドバイスはしにくいです。ローリングストックは常温保存の物だけではなく、冷凍食品なども含まれます。長期停電した際には解凍してしまいますので、それらを優先的に食べて過ごすことも考えて良いでしょう。
また、毎日買い物をする家庭は計画を立てやすく、冷蔵庫もぎゅうぎゅうに詰まりにくいため、食品ロスが少ない傾向があると思われます。一方、私のように週1回のまとめ買いをする家庭では、予定変更で計画が崩れることもあるでしょう。だから「計画を立てる」だけでなく、「崩れた時にどうするか」も重要です。冷凍保存の活用、冷蔵庫内の整理、在庫把握が有効です。
さらに、カセットコンロとカセットを備えておけば煮沸という選択肢が持てます。冷凍食品などの調理も可能です。備蓄する水は、長期保存水ではなく、水道水を容器で入れ替えてストックし、使うやり方もあります。定期的に充填し直していけば良いのです。非常時に飲むのが心配ならば、煮沸して飲みましょう。何をどう回すかをやんわり決めておくと、期限切れ廃棄を減らしつつ実用性も上げられます。
長時間の停電・断水で想定外になりやすいのはトイレで、最初の数時間で困難が表面化しやすい
FXI:地震や洪水による長時間の停電や断水を経験した家庭では、事前の備えについて「これは想定していなかった」と感じやすいのはどのような点だとお考えですか?
岡山氏:それはトイレです。普段のトイレは、水が流れて当たり前という生活基盤の上で私たちは暮らしています。しかし断水が起こると、この常識が一気に崩れます。
大地震発災後、3時間以内にトイレに行きたくなる人が4割、6時間以内では合計で7割超という調査結果があります。排泄は我慢が難しいので、食事より先に切迫した課題になります。
自宅でも避難所でも同様です。断水時に通常のトイレをそのまま使って流す前提でいると、すぐ行き詰まります。まずは発災後に「直接トイレに排泄しない・流さない」対応を前提にする必要があります。
FXI:停電・断水の備えは水や食料だけではなく、排泄の備えを優先する必要がありますね。携帯トイレ(洋式便器に被せて使う便袋と固化剤)は1人あたりどの程度備えるべきか、決まっている数はあるんでしょうか。
岡山氏:目安としては、一人一日5回トイレに行くとして、3日分なら15回分、7日分なら35回分です。家庭や職場などで必要な人数分を掛けて備えます。また、便器内の水と携帯トイレを隔離するため、携帯トイレを使用する際には、まず便器そのものにごみ袋などを被せてください。その上に、携帯トイレをセットして用を足します。ごみ袋はどの家庭や職場にもストックがあると思いますので、特段備蓄する必要はないと思います。
貯めておいた風呂水をトイレに流す対応を取る人もいますが、排水管の状況次第では詰まりのリスクがあります。断水解消後にも建物全体へ影響が残る可能性があるため、状況確認が取れるまで流さない判断が安全です。できるだけ携帯トイレを使ってください。
なお、使用済みの携帯トイレは、ごみ収集再開まで保管が必要です。使用済み携帯トイレは中の空気をできるだけ抜いて固く縛って消臭袋などに入れて、集合住宅ならばベランダなどで保管してください。大袋に過度にまとめない方が扱いやすいです。保管場所も事前に決めておくと混乱が減ります。ごみ出しは、行政の指示に従ってください。
数日間の停電・断水では「排水しない生活」と「携帯トイレ運用」が難所で、事前の試用が有効
FXI:長時間(24時間以上数日間)の停電や断水を想定したとき、これまでの調査や現場でのご経験から、多くの家庭が生活の中で直面しやすい困難にはどのようなものがあるとお考えですか?
岡山氏:断水だけではなく、下水道不通が長時間に及ぶと、困難はさらに具体化します。トイレだけでなく、あらゆる排水が不可ということは、歯磨き後の吐き出しや洗い物の排水も制約されるということです。先ほども言いましたが、マンションなどでは縦管や下水接続の安全確認が取れるまで、排水を抑える必要が生じる場合があります。
また、携帯トイレは「備蓄して持っているだけ」では不十分です。普段使っている洋式便座を使うだけで、排泄の仕方は普段と全く異なります。使い方に慣れていないと、結局直接用を足してしまって流せなくなったり、飛び散りや処理ミスが起きやすいです。座って使う、設置順を守る、使用後に確実に縛る、きちんと保管するなど、運用の精度が求められます。
繰り返しますが、使用済み携帯トイレの保管も現実的な課題です。行政が収集を開始するまでの数日間、家庭内で衛生的に保管する必要があります。量としても軽視できず、一人あたり一日で相応(2kg程度)の重量のごみが出るため、保管と搬出を見越した設計が行政にも必要です。
避難所と自宅では条件も異なります。断水・下水道不通で洗濯ができなくても、自宅なら手持ち衣類を使い捨てにできます。一方、避難所では数日間に渡って下着交換が難しく、特に女性はその対策のためにライナーなどの備蓄が必要です。生理用ナプキンで代用し、一日あたり数枚を全女性の配布するというのも一案です。いずれにしても、停電・断水は「食料だけ準備しておけばよい」問題ではありません。
FXI:非常時のトイレは、排泄・排水・保管までを一体で考えないと、数日運用は難しいですね。携帯用トイレは練習した方がいいのでしょうか?
岡山氏:はい、実際に一度は使ってみることを勧めます。製品ごとに仕様が違い、1回ごとに処理するものもあれば、吸収量の想定が数回分と異なるものもあります。消臭成分の違いもあります。
使ってみると、洋式トイレに溜まっている水位や形状との相性、設置しやすさ、飛び散りやすさなど、初めて気づく点が多いです。いざという時に初回でつまずかないために、事前に経験しておく価値があります。試用後は可燃ごみとして処理する前提で、家庭内で無理のない範囲で確認しておくことが実践的です。
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