学生主体で世界へ挑む和歌山大学ソーラーカーの挑戦

太陽光のエネルギーだけで長距離を走るソーラーカー。
その開発には、車体の軽量化や空力性能、電気系統の設計に加え、天候やバッテリー残量を踏まえた緻密なレース戦略が求められます。

和歌山大学ソーラーカープロジェクトでは、学生自身が車両の設計・製作からチーム運営、資金集め、広報までを担い、世界大会への挑戦を続けています。
本インタビューでは、学生主体のチームづくり、ソーラーカー開発の難しさ、BWSC 2025での記録更新、新車両「YATA」の開発、次回大会への目標について和歌山大学学生自主創造支援部門(クリエ)を担当する西村 竜一先生と和歌山大学ソーラーカープロジェクト代表(学生)山下 将矢さん(システム工学部)にお伺いしました。

※左:和歌山大学学生自主創造支援部門(クリエ) 部門担当教員 西村 竜一、右:和歌山大学ソーラーカープロジェクト代表 山下 将矢

目次

学生自身が意思決定し世界大会を目指すチーム

和歌山大学ソーラーカープロジェクト、BWSC2025出場時
和歌山大学ソーラーカープロジェクト(BWSC2025)

FXインフォメーション合同会社(以下FXI): 和歌山大学ソーラーカープロジェクトとは、どのようなチームなのでしょうか。活動内容や、一般的な自動車系の部活との違いも含めて教えてください。

山下氏: 私たちは、一人乗りのソーラーカーの設計・製作を学生主体で行うプロジェクトです。各プロジェクトにはサポートする教員はいますが、学生自身で活動の方針を決め、チーム運営を行っていることが大きな特徴です。

資金集めや広報活動も自分たちで行っています。私たちの目標は、2年に一度オーストラリアで開催される「BWSC」への出場です。一般的な自動車競技との大きな違いは、約3,000kmを走る長距離の耐久レースである点だと思います。

FXI: 車両を作るだけでなく、資金集めや広報、チーム運営まで学生が担っているのですね。世界大会という明確な目標に向けて、学生自身がプロジェクトを動かしていることが伝わってきました。

西村氏: ソーラーカープロジェクトは、和歌山大学の学生自主創造支援部門(クリエ)に所属しています。クリエは、全学組織であり、学生が所属する学部等を問わず、すべての和歌山大学の学生がプロジェクトに参加したり、新しいプロジェクトを立ち上げることができます。クリエのプロジェクト活動は、本学では正式な教育プログラムとして扱われています。

学生の自主性を尊重しながら、教員が安全確認や技術指導、さまざまな手続きなどで支援し、活動によっては単位認定を受けることも可能です。大学には専門家である教員がいて、多様な設備があります。そうした資源を活用し、学生に夢や挑戦を形にしてもらうために設けられた組織です。

クリエには文系・理系を問わずさまざまな学生プロジェクトがあり、ソーラーカープロジェクトは20年以上の歴史を持つ、最も規模の大きなプロジェクトです。

当初は車両がまともに動かないところから始まりましたが、学生が自ら計画を立て、設計や学習を重ねながら、世界大会での完走や表彰台を目指せるところまで成長してきました。教員はあくまで指導と支援を担い、日々のチームの運営やご協力いただける方を探す活動などを学生が主体となって進めています。

FXI: 学生が主体的に活動する中で、身につく力や卒業後の進路に生かせる経験はありますか。

山下氏: 就職という面でも、ソーラーカープロジェクトでの経験は強みになると思います。車を作る技術だけではなく、何十人もの学生が所属するチームを自分たちで運営し、世界大会という一つの目標に向かって挑戦するからです。

目標を達成するまでのプロセスで得られる経験は、社会に出てからも役立つものだと感じています。

FXI: 技術力に加え、組織を動かしながら目標へ進む力も身につくのですね。実際の社会にも通じる経験を、学生のうちから積める環境だと感じました。

西村氏: 卒業生が大手自動車メーカーなどへ就職していることからも、活動経験は大きな力になっていると思います。

また、参加者はシステム工学部の理系の学生だけではありません。経済学部、教育学部、観光学部、社会インフォマティクス学環の学生も、広報や総務をはじめとする役割を担っています。スポンサー集めも含め、ソーラーカープロジェクト全体が一つの小さな会社のように動いているため、社会人として必要になる基礎的な力を実践的に学べます。

文系で入学し、当初はものづくりに関心がなかった学生が、活動を通じて車両製作や溶接に取り組み、卒業後にメーカーへ進むこともあります。学生が自身の可能性や進路を広げ、さまざまな背景を持つものづくり人材へ成長できることも、クリエで活動することの意義だと考えています。

設計と戦略に表れるソーラーカーならではの難しさ

FXI: ガソリン車・EV・ハイブリッド車と比較した際、ソーラーカーならではの難しさや面白さはどこにありますか。

山下氏: 設計面では、ソーラーパネルを搭載するための平面を車体に確保しながら、空気抵抗の低減や軽量化も進めなければならない点に、他の車両にはない難しさがあります。

レースでは太陽光のエネルギーだけで走行するため、発電量やバッテリー残量、コースの勾配、残りの走行距離など、さまざまな条件を考慮して速度を決めます。このエネルギーマネジメントが、ソーラーカーの大きな面白さです。

FXI: 車体性能だけでなく、限られたエネルギーをどのように使うかまで含めて競うのですね。設計とレース戦略が密接につながっていることがよくわかりました。

西村氏: ソーラーカーは基本的にレースカーなので、出場する大会に合わせて設計を最適化する必要があります。オーストラリア大会と国内大会ではレギュレーションも異なるため、それぞれの条件に応じて設計しなければなりません。

現在はコンピューターによるシミュレーションやCADも活用し、解析を行いながら車両を最適化しています。安全性を守りつつ、自分たちのこだわりを突き詰めて技術を高められることが、レースカー開発の醍醐味だと思います。

学生が挑戦できる国内大会は減っていますが、社会の皆さんと協力しながら、学生が設計やレースに挑める場所を維持していくことも大切だと考えています。

FXI: 天候や日照条件によって戦略も大きく変わると思います。レース中はどのような判断を行うのでしょうか。

山下氏: BWSCでは6日間にわたって走るため、先の天候も確認しながら、バッテリー残量や今後の発電量を予測します。発電量が多い区間では速度を上げて進み、発電量が下がる場面では速度を落とすなど、複数の条件を組み合わせて走行速度を決めます。

単純に速く走ればよいわけではありません。ゴール地点でバッテリー残量がゼロになる走りが最も効率的なので、そこから逆算して出せる限りの速度を考えます。一方、途中でトラブルが起これば計画を練り直す必要があり、この判断を6日間繰り返していきます。

FXI: 最後まで走り切るためには、天候の予測とエネルギー管理に加え、トラブルへの対応力も欠かせないのですね。状況に応じて計画を更新し続ける、非常に複雑な競技だと感じました。

西村氏: BWSC 2025では、これまでとは異なる悪天候に直面しました。過去の大会は基本的に晴天でしたが、今回は激しい雨や風があり、チームにとってほぼ初めての経験だったと思います。

ソーラーカーは太陽光を多く受けるため、平たく広い形状をしています。これまでは悪天候による発電量の低下を主に考えていましたが、強風への対応も必要だとわかりました。

ただし、悪天候への対策を増やせば、重量や効率に影響する可能性があります。安全を確保しながら、どこまで天候に対応する設計にするのか。次回大会に向けて、学生を中心に議論すべき重要なテーマです。

2,831kmの走行で見えた成長と課題

FXI: 今回のBWSC 2025では、2,831kmという大幅な記録更新を達成されました。チームとしてどのように受け止めていますか。

山下氏: 大きな進歩として前向きに受け止めています。一方で、完走できるかどうかには大きな違いがあり、ゴール目前でリタイアしたため、メンバーには悔しい気持ちが強く残っています。

技術や知識は大きく成長しましたが、スケジュールに余裕がなく、細かな設計や製作でミスもありました。資金やプロジェクトの規模は簡単に埋められない差ですが、細部への気遣いは自分たちの努力で改善できます。次につながる課題として前向きに捉えています。

FXI: 走行距離を大きく伸ばした成果だけでなく、完走できなかった悔しさや、改善できる課題にも向き合っているのですね。次回への手応えと責任感の両方が伝わってきました。

西村氏: 日本から応援していた私も、今回は完走できると信じていました。車体の見た目や仕上がりからもクオリティの高さが伝わり、レース中の学生たちにも、前回より余裕があるように見えたからです。

チームは、多くのスポンサーや協力者の皆さんに支えられています。山下君たちはその期待を受け止め、結果を分析したうえで、次回に向けた計画を2年間かけて整えようとしています。

期待に応えられなかった悔しさはありますが、チームは着実に成長しています。次こそ完走を果たすとともに、プロジェクトを通じて日本のものづくりを担う人材が育ってほしいと考えています。

FXI: 前回大会から走行距離を大きく伸ばせた要因は何だったのでしょうか。

山下氏: 最も大きいのは軽量化です。前回大会の車両から50kg以上軽くすることができました。空気抵抗も改善し、電気系統のトラブルが非常に少なくなったことで、車両自体も扱いやすくなっています。こうした変化が走行距離に大きく影響したと思います。

FXI: 軽量化だけでなく、空力性能や電気系統の安定性も改善したことが、大幅な記録更新につながったのですね。

西村氏: 2023年大会の車両は、初めてオーストラリア大陸を縦断することへの慎重さもあり、安全面を重視して頑丈に作った結果、かなり重くなっていました。

今回は、前回大会の経験と技術の向上によって、大幅な軽量化を実現しています。ただし、軽くした車体が強風にあおられたことを考えると、軽量化の影響も検討する必要があります。安全を第一にしながら、レースカーとしてどこに最適点を置くかは、実際にレースへ出場して初めてわかる部分もあります。

新車両「YATA」に結集した軽量化と技術の工夫

和歌山大学の学生が開発したソーラーカー「YATA」①
和歌山大学|ソーラーカー「YATA」①
和歌山大学の学生が開発したソーラーカー「YATA」②
和歌山大学|ソーラーカー「YATA」②

FXI: 新車両「YATA」の開発で、特にこだわったポイントを教えてください。

山下氏: YATAの最大の特徴は軽量化です。前回はカーボン積層のノウハウがなく、我流で製作したことも重量増加の一因でした。今回はカーボンの専門家と定期的にやり取りし、正しい製作方法を教えていただきながら、丁寧に作業を進めました。

企業の協力を受け、アップライトと呼ばれる比較的大きな部品には「ジェネレーティブデザイン」も取り入れました。必要な条件を入力し、AIに形状を設計させる技術です。これにより、853gあった部品を約半分の440gまで軽くできました。

こうした細かな軽量化を積み重ね、前回車両「ORCA」の約200kgから、YATAは154kgまで重量を減らしています。BWSC 2025のチャレンジャークラスに出場した26チームの中で2番目に軽く、重量という点では世界レベルに到達できたと考えています。

FXI: 一つの大きな変更ではなく、専門家や企業の力も借りながら細部を見直した結果、50kg以上の軽量化を実現したのですね。

西村氏: 2023年大会へ出場したことで、和歌山大学のソーラーカーチームに対する注目が高まり、企業や支援者の方々と話す機会が増えました。学生自身も経験を積み、専門家と技術的な話ができる力を身につけています。その結果、ジェネレーティブデザインをはじめとする新たな技術提案をいただけるようになりました。

以前は学生の感覚に頼って作る部分もありましたが、現在はCADで設計し、空気抵抗などをシミュレーションして、数値で議論できるようになっています。YATAは、一つの新技術だけで完成したのではありません。学生の着実な技術向上と、支援してくださる方々の協力が結集し、車両全体のバランスが良くなったことが大きいと思います。

FXI: 世界トップレベルの軽さを実現できた背景には、学生主体の開発ならではのアイデアや工夫もあったのでしょうか。

山下氏: ジェネレーティブデザインの活用は大きかったと思います。また、他チームは高速域で影響が大きくなる空気抵抗の低減に力を入れた結果、車両が重くなっている場合もあります。

私たちにとって重量は、自分たちの工夫で勝負できる部分でした。安全性を守りながら、可能な限り軽量化を突き詰めたことが、この結果につながったと考えています。

FXI: 限られた条件の中で、自分たちが最も力を発揮できる部分を見極め、そこへ集中したのですね。

西村氏: 現実的には、使える資金が限られていることも理由です。他チームのようにバッテリーやソーラーパネル、モーターなどへ多くの費用をかけることが難しいため、自分たちにできる工夫として軽量化を選びました。

何度も試作できるわけではないので、コンピューター上で設計を十分に作り込み、成功する見通しを立ててから形にする必要があります。資金が限られているからこそ知恵を出し、ITを使って費用を抑えながらシミュレーションを重ねたことが、チームの強みになっています。

FXI: 海外の上位チームが採用している車体形状や技術を、次の車両開発へ生かすこともありますか。

山下氏: BWSCの現地で海外チームの車両を見て、学んだことを取り入れるのは非常に大切です。YATAの製作でも、2023年大会で海外チームから学んだことを数多く取り入れました。

上位チームの車両に見られるフィンのような構造は、高度な流体解析が必要なため、現時点で私たちが簡単に導入できるものではありません。それでも、海外チームならではの技術から学び、2027年に向けた車両改良へ生かしたいと考えています。

FXI: 世界大会は競う場であると同時に、最先端の工夫を間近で学べる場でもあるのですね。自分たちの技術や条件に合わせて、吸収できるものを見極めることも重要だと感じました。

西村氏: フィンがどのように作用しているのかは、現時点では私たちにもわからない部分があります。空気の流れを整える、横風を推進力へ変えるといった見方もありますが、実際の効果については今後さらに調べていく必要があります。

他大学の研究や知見も参考にしながら、学生たちと学びを深めていきたいと思います。

BWSC 2027で目指す初完走とものづくりへの思い

FXI: 最後に、次回BWSC 2027への目標と、ソーラーカーや車づくりに興味がある学生へのメッセージをお願いします。

山下氏: BWSCには2023年、2025年と出場し、多くの経験と知識を積み重ねてきました。2027年はそれらを確実に生かし、プロジェクト史上初の完走を果たして、和歌山大学ソーラーカープロジェクトの歴史に自分たちの名前を刻みたいです。

活動を通じて、ものづくりの楽しさだけでなく、仲間と一つの目標に向かって挑戦することの楽しさや貴重さも学びました。学生のうちにこのような経験ができる機会は多くありません。チャンスを逃さず、ものづくりへ挑戦し続けてほしいと思います。

FXI: 2大会で積み重ねた経験を、次こそ初完走という結果につなげたいのですね。ものづくりの技術だけでなく、仲間と挑む時間そのものが大きな学びになることも伝わってきました。

西村氏: 和歌山大学は規模の大きな大学ではありませんが、その分、学生たちは知恵を出しながら戦っています。設計や製作だけでなく、活動に関わるさまざまな課題について悩み、仲間と協力しながら答えを探しています。

ものづくりは、手を動かすことだけではありません。皆で知恵を出し合う知的な活動でもあります。挑戦してみたいと思う学生には、ぜひ参加してほしいです。

また、このチームは学生だけで成り立っているわけではありません。教職員、地域の企業、学校の先生、メディアをはじめ、多くの方の協力によって一つのものづくりコミュニティが形成されています。

卒業後もソーラーカーを作りたいと、和歌山に拠点を作って活動しているOBチームもあります。このコミュニティを通じてものづくりの楽しさを知り、仕事だけでなく、その後の人生も豊かにしてもらえたらうれしく思います。

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