世代を超えて学ぶデジタル時代の「伝え方」と「学び方」

デジタル化が進む中で、世代によって「使える・使えない」の差は、単なるスキル差ではなく、経験の積み重ねや学び方の違いとして現れています。とくにスマートフォンや生成AIのように進化の速い技術では、若い世代には直感的でも、シニア世代には複数のつまずきが同時に起こりやすい状況があります。

一方で、使い方の設計や教え方を見直すことで、世代間の学びは分断ではなく接点に変えられます。本インタビューでは、シニア世代のデジタル活用、生成AIの可能性、世代間学習の設計、そして家族内で教える際の実践ポイントについて東京情報大学の松下孝太郎 教授にお伺いしました。

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操作は「単純化」と「見やすさ」の設計が使いやすさを左右する

FXインフォメーション合同会社(以下FXI):スマートフォンやタブレットの画面操作に苦手意識を持つシニア世代でも直感的に使える画像表現やUIには、どのような工夫が必要だと思われますか?

松下孝太郎教授(以下松下教授):大きく二点あります。まず、操作を単純にすることです。機能を絞ったほうが、実用的にも教育的にも有効です。もう一点は、老眼への配慮です。日常的に使う画面ほど、文字は大きく、情報量は整理して見やすくすることが大切です。

FXI:ありがとうございます。文字サイズや色といった分かりやすい配慮以外で、見落とされがちだけれど効果の高い工夫はありますか?

松下教授:アプリや画面の切り替えを、いかに単純にできるかが重要です。特に多要素認証のように時間制限がある場面では、慣れていない人ほど焦って操作が分からなくなりやすいです。OS側の機能だけでなく、アプリ側でも「一時的に隠す」「戻る」を分かりやすくするなど、シニアが見て理解できる統一的な設計があると助かります。

FXI:切り替えの負担そのものが壁になるということですね。若い世代が親切だと思っている機能が、逆に混乱を招くケースはありますか?

松下教授:操作面で若い世代が混乱する場面は多くありませんが、気をつけたいのは個人情報の扱いです。若い世代は多くのアプリを使う一方で、規約や提供先を十分見ないまま情報を入れてしまうことがあります。アプリは世界中で作られているので、個人情報がどこでどう扱われるかを意識し、セキュリティ面を十分に管理する必要があります。

生成AIは「公開」より「作って楽しむ」段階でシニアの効果が大きい

FXI:写真や動画を加工するCG技術が身近になってきた中で、シニア世代の趣味活動や地域活動はどのように変わっていく可能性がありますか?

松下教授:生成AIの講座では、一般向けでも非常に関心が高く、実際に多くの方が参加されました。いまは文章生成と画像生成を一つの流れで扱いやすくなっていて、使い勝手が上がっています。シニアの方でも、家にいながら新しい創作を楽しめるので、体力や体調に左右されやすかった余暇の過ごし方が広がっています。余暇の充実につながる点は大きいと思います。

FXI:ありがとうございます。作品を作る、記録する、共有するという流れの中で、特に心理的効果が大きいのはどの段階でしょうか?

松下教授:シニアの方は「作る」「自分で見る」段階の効果が大きいです。公開は別の操作や手順が必要になり、ハードルが上がります。若い世代は公開自体が目的になりやすく、「公開するために良いものを作る」傾向がありますが、シニアは作ること自体が目的になりやすいです。

FXI:目的の置き方が世代で違うということですね。デジタル化が進むことで、置いていかれやすい人が生まれるリスクはどう見ていますか?

松下教授:置いていかれやすいのは、操作能力よりも、最初から拒否反応を起こしてしまう場合です。高齢だからできないというより、必要性を認めず、学ぶ入口に立たないことが大きいです。操作そのものは、よほど高齢でなければ学べることが多いと感じています。

世代を分ける教育から「一緒に学ぶ設計」へ変わりつつある

FXI:学校でICTやプログラミングを学んだ若い世代と、デジタル経験の少ないシニア世代が一緒に学ぶ場を作るとしたら、教育工学の観点ではどのような学びの設計が効果的でしょうか?

松下教授:以前は世代ごとに学びを分けるのが前提でしたが、デバイスやソフトの進化で、同じ活動を一緒に行える環境が整ってきました。生成AIのように、子どももシニアも同じ入口で始められる教材は、世代間コミュニケーションを促進しやすいです。孫と祖父母が同じ活動を共有できる点は、これまでと大きく違います。

FXI:世代間コミュニケーションそのものが、学びの目的にもなってきたということですね。もう少し踏み込むと、プログラミングのような領域でも世代をまたいだ学びは可能でしょうか?

松下教授:可能です。コードを直接書かないビジュアルプログラミングは、シニアにも取り組みやすく、世代を超えて共有しやすいです。生成AIのような気軽な入口から、少し深い学びへ進む流れを設計すると、学びと交流を同時に実現しやすくなります。

FXI:入口を軽くして共通体験を作ることが鍵なのですね。今後も同じ方向で発展すると見ていますか?

松下教授:今後はさらに新しいツールが出てくると思いますが、世代間で同じ活動を共有できる流れは続くはずです。学習の成果だけでなく、世代間の対話そのものに価値を置く設計が、ますます重要になると考えています。

「伝わらない」を減らす鍵は手順を省略しないことと成功体験の設計

FXI:親のスマートフォン操作やオンライン手続きを手伝う中で、子ども世代が感じやすい「教える難しさ」や「なかなか伝わらない」は、なぜ起きやすいのでしょうか?

松下教授:大きく二点あります。第一に、スタート時点の経験差です。子どもの頃から当たり前に触れてきた世代と、途中から必要になって触れ始めた世代では、理解の前提が異なります。第二に、年齢に伴う体力や気力の変化です。一定時間取り組んで難しいと感じると、そこでやめてしまいやすい傾向が出ます。

FXI:経験差と年齢的な要素が重なるわけですね。教える側として、やってはいけない行動はありますか?

松下教授:手順を飛ばすことです。教える側には当然でも、学ぶ側には前提になっていない操作があります。たとえば入力欄をクリックして入力状態にする、といった一歩目を省くと、そこで止まってしまいます。それと、早い段階で成功体験をさせないことです。まず確実にできる課題で成功を体験してもらうことが重要です。

FXI:細かい手順の可視化と、最初の成功体験の設計が大切なのですね。家庭で教える場面でも、その考え方はそのまま使えますか?

松下教授:使えます。難しいことを一気に教えるのではなく、必ずできる一歩を明確にして、成功を重ねることです。手順を省略せず、できた実感を先に作ることで、継続しやすくなります。

#松下孝太郎

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