工学院大学ソーラーチームに聞く世界を舞台にしたものづくりと学びの力

工学院大学 工学部 機械システム工学科 濱根洋人 教授 学生プロジェクト 工学院大学ソーラーチーム 顧問

太陽光を動力源として、オーストラリアの大地を3,000kmにわたって走り抜ける世界最大級のソーラーカーレース「ブリヂストンワールドソーラーチャレンジ」。
そこに挑む工学院大学ソーラーチームは、車の設計・製造だけにとどまらず、チームマネージメントや海外との各種折衝まで学生が担う、一種の会社のような組織だ。
広報活動・スポンサー集め・輸出入手続き・食事の準備に至るまで、多様な役割が交差するこのチームは、一般的な部活動とは一線を画す経験の場となっている。
本インタビューでは、工学院大学ソーラーチームの活動内容から車両の仕組み、学生の成長や教育的意義に至るまで、工学院大学の濱根洋人 教授/ソーラーチーム 顧問にお伺いしました。

目次

太陽と3,000kmに挑む「学生が動かす会社」

FXインフォメーション合同会社(以下FXI): ソーラーチームとは、どのようなチームなのでしょうか。活動内容や、一般的な自動車部との違いも含めて教えてください。

濱根氏: 大学1年生から大学院生までが所属し、オーストラリアで開催される世界最大のソーラーカーレース「ブリヂストンワールドソーラーチャレンジ」での優勝を目指す学生が集まったプロジェクトです。

舞台はオーストラリア北部のダーウィンから南部のアデレードまでの約3,000km。このルートを走り抜けることが最大の特徴となります。

単なるものづくりとはまったく性質が違い、現地で過酷なキャンプを行いながら食事を作り、チームマネージメントが強く求められる競技です。
他の学生プロジェクトの多くが短期間の設計と評価で完結する中、このチームはマネージメント能力を身につけながら競い合うという意味でも、特色ある活動といえます。

FXI: 設計・製造にとどまらず、現地での生活まで学生が担うのですね。一般的な部活動とは規模も性質も大きく異なると感じました。チームに参加する学生は、どのようなきっかけで入部することが多いのでしょうか。

濱根氏: オーストラリアの大会に参加した際にテレビ番組で取り上げていただくことがあり、放送を見た高校生が「ぜひやりたい」と志願してくるケースもあります。やはり海外、特にオーストラリアへの挑戦を求めて入ってくる学生が多い印象です。

面白いのは、車やものづくりへの興味だけで集まっているわけではない点でしょうか。

チーム内には「総合企画室」という部署があり、スポンサー集め、広報、輸出入の手配、キャンプの運営、食事の準備と、それぞれの役割が班に分かれています。トータルで見ると一つの会社のような体制で、半分以上がマネージメント系の役割に興味を持って入部しています。

新入生歓迎の場でこうした話をすると、「カメラ担当として取材だけやりたい」「料理班として貢献したい」という形で志願してくる学生もいるくらいです。

太陽が90%以上を担う走行と、最先端技術の集積

FXI: ソーラーカーはどのような仕組みで走るのでしょうか。ガソリン車や電気自動車との違いもあわせて教えてください。

濱根氏: よく「太陽電池だけで走っているのですか?」と聞かれますが、実はバッテリーも搭載しています。

3,000kmのうち約5%程度しか走れない容量のものではありますが、坂道や雨天時にバッテリーが補助として機能し、残りの90〜95%は太陽電池のエネルギーだけで走り切る設計です。

ガソリン車とは仕組みが根本的に異なりますし、電気自動車との比較でいえば、ブリヂストンをはじめとするタイヤメーカーや素材メーカーとも連携しながら、各企業・研究機関が開発する最先端の素材・部品を活用している点が大きく違います。

電気・機械・化学・情報・建築といった工学分野の領域を横断的に組み合わせて車を作るため、市販車よりもかなり特化した仕様になっています。
将来的には電気自動車やガソリン車にも転用できる技術を競技の場で実践しているという形です。

また本学では、文部科学省の教育事業として「スマートファクトリー」という取り組みも進めています。

50年後に日本の人口が約4,000万人減少するという見通しの中で、少ない人数でものを作り上げる工場を管理・構築できる世界的リーダーを育てることが目標のひとつです。

車両を完全内製化するチームの活動はその実践の場にもなっていて、自動車メーカーが何万台もの量産をするのとはまったく異なる次世代のものづくりを模索しているところが、他の車との大きな違いといえるでしょう。

FXI: 天候によって走行性能はどの程度変わるのでしょうか。曇りや雨の場合の対応についても教えていただけますか。

濱根氏: 極端に言うとリタイアになります。実際、参加チームの半分以上がリタイアするレースです。

チームは最高2位を獲得したこともありますが、直近では5位、13位という結果もありました。対策として、後続の指令車の中でリアルタイムに計算を続けながら走行をコントロールしています。

箱根駅伝の伴走車に近いイメージで、一日に600〜700 kmを進みながら、雲の位置を把握して「300km先の違う街に雲があればスピードを上げて突き抜ける」「速度を落として雲が通り過ぎるのを待つ」といった判断をその都度行います。

このレースは「頭脳プレー」とも呼ばれており、最近ではAIを活用して天気を予測しながら最適な走行指令を出すチームも増えています。

スタンフォード大学、ミシガン大学、デルフト工科大学、ケンブリッジ大学といった世界トップクラスの大学も参加していて、エネルギーマネージメントが勝敗を大きく左右する競技です。

世界でも稀な下級生主体の開発と、革新的な技術への挑戦

FXI: 学生が中心となって車両の設計・製造を行っているとのことですが、どのような工程や役割分担で開発が進められているのでしょうか。

濱根氏:本チームでは、1〜2年生が設計と製造を担当しています。

大学院生などの上級生は、後続指令車の運転、輸出入のカルネ(通関手帳)の手配、船便や飛行機の予約といったチームマネージメントを担います。

設計から製造まで下級生が主体となって進めるスタイルは、世界的に見ても非常に珍しい取り組みです。

海外のトップチームでは、大学院生がソーラーチームに所属してレースに出場し、その成果で論文を書いて卒業できる体制のところもあります。

デルフト工科大学やベルギーのチームがその代表例ですが、下級生がコアを担うのは世界でもほとんど見られません。

役割は非常に細かく分かれており、車体構造、足回り、ボディ、空力、電気、情報、建築的な強度計算など、学科を横断した形で細分化されています。

FXI: 下級生が設計・製造の主体を担う体制は、世界基準でも挑戦的な試みですね。オーストラリアの大会で優勝したオランダのチームはフィンのような特徴的な形状をしていましたが、他チームの技術も次回の製作に取り込んでいくのでしょうか。

濱根氏: 今回は1〜2年生中心の体制だったため実施しなかったのですが、実は同じフィンを付ける計画を以前から持っていました。それよりも前から別の先進技術に取り組んできた背景もあります。

2019年の世界大会では、参加チームの中から1チームだけが選ばれる、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)公認の技術賞「CSIROテクニカルイノベーションアワード」を日本で初めて受賞しました。

その技術はヨット走行の考え方を応用したもので、車体が斜めに傾いたまま直進し、横風を推進力に変える仕組みです。

また走行中の振動が太陽電池の性能を低下させるため、電気を使わずに自動で傾きを修正する機能も開発していました。去年注目されたフィンよりも前から、こうした取り組みを積み重ねてきたということです。

FXI: 生物の動きや構造を参考にする発想がすでにチームに根付いているのですね。EVバイクのような他の乗り物の空力技術も参考にされることはありますか。

濱根氏: はい、EVバイクで車体中央に大きな穴を開けて高速走行を実現するシステムなども話題に上がります。

同様に横向きに穴を開けて通り抜ける空気を推進力に変えられないか、といったアイデアも出てきますし、走行中に素材が変形する「モーフィング」の考え方も議論の対象です。

バイオミメティクス(生物模倣)はチームが以前から積極的に取り入れてきた考え方で、バイクや鳥などあらゆるものを参考にしながら学生同士でアイデアを出し合っています。

一気通貫の体験が育てる主体性と世界とつながる力

FXI: この活動を通じて、学生はどのような力を身につけていくのでしょうか。また、先生の立場から見た教育的な意義についても教えてください。

濱根氏: 一言で表すなら「一気通貫」です。

授業で学んで設計・製造するところまでは通常の学びのプロセスですが、それを実践して振り返るところまでをひとつながりで経験できるのが、この活動の核心だと考えています。3,000kmの公道で他の車とすれ違い、過酷な天候と戦いながらキャンプ生活を送り、ゴールに至るという体験は、授業の延長線上では決して得られないものです。

この一気通貫の経験を通じて身につくのは、実践から生まれるコミュニケーション力と主体性です。課題に対してソリューションを自分で考えて動くことができる、誰かに言われる前に先手を打って行動できるといった姿勢が自然に身についている学生が多いというのが実感としてあります。

FXI: 国際的なつながりという点ではいかがでしょうか。また、英語が得意でない学生でも問題なく活動できるものでしょうか。

濱根氏: 海外に友人ができるという点も大きな収穫のひとつです。

アーヘン工科大学へ事前のアポイントなく乗り込んで、ソーラーカーの作業場を見せてほしいと訪ねた学生がいたり、反対にマサチューセッツ工科大学の学生が我々のチームを訪ねてきて友人になるといった交流が日常的に起きています。

レース後は世界中のチームと打ち上げをする場もあり、IT企業や宇宙関連企業から声をかけてもらう学生も出てきています。英語については流暢でない学生がほとんどですが、オーストラリアに行きたいという強い動機から自分で勉強するケースが多く、現地で同じ学生同士として技術的な話ができる程度には十分に対応できています。

最近は大学入試の段階で英検2級レベルの下地がある学生も増えており、怖がらずに飛び込める雰囲気があることが一番の強みだと感じています。

昨日もアデレードの大学から連絡が届いていて、世界中とのやりとりはすでに日常の一部です。

アイデア次第で無限に広がる科学の可能性

FXI: 最後に、車やものづくりに興味がある高校生・大学生へメッセージをお願いいたします。

濱根氏: まず、将来少子高齢化が進んだ社会の中でどんな形なら自分が幸せに生きられるか、クオリティ・オブ・ライフをひとつ考えてみてほしいと思います。

エジソンが電球を発明したのはほんの百数十年前のことですし、今よりも大きな携帯電話が家電量販店に並んでいたのもわずか30年ほど前のことです。

ちょっとしたアイデアひとつで科学はいくらでも変わり得ますし、まだまだやることがたくさんあります。今の中高生の皆さんが60歳になる頃には、電気を流すと鳥のように翼がはばたくモーフィング技術の飛行機に乗っているかもしれません。

自然界の仕組みをうまく取り入れたスペースコロニーのような世界も夢ではないと考えていて、全く違う発想で楽しみを持ちながらものづくりに向き合っていただければ嬉しいです。

FXI: ソーラーチームに向いている人の特徴や、活動で苦労しやすいタイプの傾向があれば教えていただけますか。

濱根氏: チームとしては、誰でも歓迎というスタンスでやっています。

18歳ごろになると性格はそう変わらないので、嫌なことをさせても長続きしません。

やることがたくさんある分、まず自分にぴったり合った場所を見つけることが大切です。

好きなだけでは世界とは戦えない、楽しめることが必要だという考え方を大切にしていて、自分が楽しめる場所でプロ以上の力を発揮できれば、みんなが集まれば世界一になれるというのがソーラーチームのポリシーです。

入りたいと言ってきた学生をダメだと言うことはなく、どんな形でも貢献できる場所が必ずある。そういう方針でメンバーを受け入れています。

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