機能と体験が導く未来の車とバイクの楽しみ方

車やバイクをめぐる環境は、電動化や自動化の進展によって大きく変わりつつあります。見た目の俗にいうかっこよさや速さだけではなく、使いやすさや快適さ、そしてその乗り物がどのような体験をもたらすのかが、これまで以上に重要になってきました。

そうした変化の中で、乗り物のデザインや魅力はどのように考えていけばよいのでしょうか。本インタビューでは、車やバイク、ドローンなど幅広いモビリティを研究対象とする視点から、これからの乗り物のあり方について湘南工科大学の鈴木 浩 教授にお伺いしました。

目次

機能と美しさは対立ではなく統合の先にある

FXインフォメーション合同会社(以下FXI): 車やバイクのデザインを考えるとき、見た目のかっこよさと、運転のしやすさや疲れにくさは、どのように両立させていくのでしょうか、乗り物の楽しさについて教えてください。

鈴木氏: 自動車や二輪車では、スタイリングとパッケージがぶつかり合うことがよくあります。デザイナーはかっこよくしたいし、エンジニアは成立させたいという関係です。ただ、その衝突を乗り越えたところに本当に良い形が生まれると感じています。本来はどちらか一方を優先するものではなく、両方をうまく一つにまとめる設計やデザインがとても大事です。

たとえば、ヤマハのYZF-R1のようなモーターサイクルを考えるときには、レース用のMotoGPマシンを乗り比べたりしますが、実際に乗ってみると驚くほど乗りやすいんです。つまり、性能と乗りやすさは対立するものではなありません。レースの場面でも苦しい姿勢では成果につながりにくいのです。機能性に優れた形は、結果的に美しいのだと思います。

YZF-R1

※引用元:ヤマハ発動機公式サイト

FXI: 見た目のかっこよさと性能は対立するものではなく、機能を突き詰めた先に美しさが生まれるということなのですね。デザイナーとエンジニアが意見をぶつけ合う中で、より良い形が生まれるというお話も印象的でした。

鈴木氏: 諸説ありますが、戦闘機にはデザイナーがいないと言われることもあります。もちろん欧米等との言葉の意味に違いはありますが、やはり機能を究極まで追求したものはスタイリングデザインを施さなくてもかっこよく見えます。見た目のかっこよさと性能は実は両立していて、それを見つけていくことが重要だと思います。

FXI: デザイン優先で失敗している例のようなものはあるのでしょうか。

鈴木氏: スタイリングデザインを優先して、担当者が「これはいい」と思って進めたことが、実は失敗だったということはあります。本当の意味でのデザインは、機能や性能から考えていかなければいけないというのが、私の中の一つの答えです。

FXI: まず機能や性能を重視し、そのうえで形をつくっていくことが大切なのですね。見た目だけを先に決めるのではなく、体験や性能と結びついていることが重要だと感じました。

鈴木氏: ほとんどのモーターサイクルデザイナーは300キロでサーキットを走ることはないですが、その代わり風洞に入って300キロを体験し、空力上どこをカバーすべきかを体感しながらデザインを進めることがあります。究極のマシンではそうしたプロセスを経ていくのです。

自動車はそこまでシビアに追求しない部分もありますが、モーターサイクルは人とマシンの関係が非常に大事です。そこを切り離してデザインしてはいけません。人と機械の一体感は非常に重要で、ヤマハではそれを「人機官能」と表現します。体験としての気持ちよさが外にもにじみ出たような状態が、デザインになっていくのだと思います。

電動化の時代に求められる新しい魅力

FXI: 近年は電動化や自動化などで車やバイクの形や考え方も変わりつつありますが、乗り物が好きな人はこれから何を基準に魅力を見ていくとよいとお考えですか。

鈴木氏: 電動化や自動化が進んでくると、従来のような性能やスペックの違いだけでは魅力を測れなくなってきています。むしろ重要なのは、その乗り物がどういう体験を提供してくれるか、操作がどれだけわかりやすいか、空間としてどれだけ快適かといった点です。場合によっては、デジタルとリアルをどうつなげていくかも重要になってくると思います。

使う中で得られる体験の質が価値の中心になっていきますし、どれだけ感動を生み出せるかが、これから乗り物を見る視点の一つになると思います。

FXI: これからはスペックを比較するだけではなく、その乗り物が生み出す体験や感動に目を向けることが大切なのですね。乗ることそのものの質が、魅力の判断軸になっていくと感じました。

鈴木氏: そうですね。操作のわかりやすさや空間の快適さといった部分も、今後ますます重要になっていくと思います。

FXI: F1やMotoGPでは、エンジン音の迫力も見ている側の楽しさの一つだと思います。今後、電動化でそうした音がなくなっていくことで、楽しさが減ってしまうことはないのでしょうか。

鈴木氏: 私自身もそうした時代に育っているので、爆音の中で味わう楽しさは確かにあります。ただ、時代がエコやSDGsへと変化する中で、一度は乗り物人気が落ちたものの、昨今は電動化や映画、そしてゲームの影響もあるのか、F1人気が再注目されているところもあります。そうした流れの中では、電動化がプラス要素になっている可能性もあると思っています。

価値観は少しずつシフトしていくのかもしれませんが、ガソリン車にはなかった急加速のような新しい楽しさも出てきています。そうした意味では、新しい形の魅力が増えているとも言えるのではないでしょうか。

FXI: 音や匂いのような従来の魅力が変化しても、電動化ならではの楽しさが新しく生まれているのですね。楽しさの中身そのものが、時代とともに変わっていくのですね。

鈴木氏: 乗り物の魅力は一つではないので、新しい価値観をどう受け止めていくかが大切だと思います。

FXI: 鈴木先生は、電動系のモータースポーツとガソリン系のモータースポーツでは、どちらに魅力を感じますか。

鈴木氏: 今のところは、やはり昔から親しんできた音や匂い、排気など、五感で感じる部分に懐かしさがあります。ただ、電動系のモータースポーツも、これまでになかったモーターによる加速感や、安全面も含めて新しい魅力が出てくるのかなとも期待しています。

答えとしては、やはり昔は良かったなと思う部分はありますが、最近の価値は別のところにあるとも感じています。Eスポーツの世界のチャンピオンがリアルなレーサーになることも当たり前のストーリーになってきていますし、デジタルとリアルがどうつながっていくのかは、いろいろな領域で起こり得ると思います。

Eスポーツからリアルなレーサーの事例
  • 冨林勇佑(とみばやし ゆうすけ)
    • 2016年の「グランツーリスモ」世界大会で優勝。
    • 2018年より実車レースへ進出し、スーパーGTなどトップカテゴリーで活躍する現役プロドライバーとなる。
  • 宮園拓真(みやぞの たくま)
    • 「グランツーリスモ」の世界王者として、リアルレースへの転身・挑戦に密着された経験を持つ。
  • ヤン・マーデンボロー
    • 「GTアカデミー」出身の著名なドライバー。10代のゲーマーから本物のプロレーサーになり、ル・マン24時間レースなどで活躍した。この実話は2023年の映画『グランツーリスモ』の題材となった。

実際の乗り物としても、「車内空間をどう感じるか」、「操作をいかに直感的にするか」、「自動運転が進んだときにデジタルがどう融合してくるか」など、これからの楽しみは多いです。

最近注目されているUIやUXのようなところもさらに研究していかなければいけません。
さらに、ARやVR、生成AIのようなものも体験づくりに関わってくるかもしれません。スペックだけではなく、人間の感情の動きをどうつくり出していけるかが重要になってくると思います。

移動そのものが楽しみになるこれからの体験

FXI: 車やバイクだけでなく、ドローンや空を飛ぶ移動手段まで広がっていく中で、私たちの移動の楽しみ方や休日の過ごし方は今後どのように変わっていくとお考えですか。

鈴木氏: 陸上の乗り物だけではなく、海上や空の移動も研究対象として考えています。領域を広げるために、ドローンや小型船舶の免許も取りました。移動の選択肢は今すぐではないにしても、これからどんどん増えていくと思います。

そうなってくると、A地点からB地点へどう行くかだけでなく、移動そのものの体験が一つの楽しみになっていくはずです。どこへ行くかだけではなく、どのように移動するかが重要になっていくので、移動を生活の中のコンテンツとしてどうデザインしていくかが大事になってくると思います。

FXI: 目的地に着くことだけではなく、移動の過程そのものが価値を持つようになるのですね。休日の過ごし方も、場所ではなく体験の質で選ぶ時代に変わっていくように感じました。

鈴木氏: 場合によっては、リアルとデジタルの行き来の中で、実際には移動していない移動体験も生まれてくるかもしれません。シミュレーターのようなものが移動体験の一つとして位置づけられ、今はゲームのように見えるものの中に、ゲームではない価値が出てくる可能性があります。

FXI: 自動運転が進んで、操作することが少なくなったとき、車内空間の役割はどのように変わっていくのでしょうか。

鈴木氏: 私はエンターテインメントの空間になっていくのではないかと思っています。
これまではもしかしたら退屈な時間だったものが、自動運転が進めば合法的に車内でアルコールも飲めるようになるかもしれませんし、操縦のために前方視界を中心とした外界を注視しなくても良い空間になります。操る喜びではない部分で、違う目的に使えるようになると想像できます。

また、操縦のために前だけを見なくてもよくなるわけですから、さまざまな景色を楽しんだり、その説明が表示されたりと、今まで感じ取れなかったことを経験できるようになるかもしれません。

FXI: 自動運転によって車内が単なる移動の場ではなく、楽しむための空間へ変わっていくのですね。景色や情報の受け取り方まで含めて、移動中の時間の意味が大きく変わりそうです。

鈴木氏: 私自身、ヤマハ発動機時代にモビリティショーやライディングシミュレーターの開発をデザイン監修していましたが、ゲームショーを見ていても、モビリティメーカーがゲームに寄り添っていく流れを感じますし、モビリティショーでゲームメーカーが自動車メーカーとコラボレーションする傾向も出てきています。リアルとデジタルの融合は、この先さらに進んでいくのではないでしょうか。

長く楽しめる一台は自分との関係性で選ぶ

FXI: これから新しい車やバイクに触れるとき、速さや見た目だけでなく、使いやすさや長く楽しめるかどうかをどのように見て選ぶとよいのかについて教えてください。

鈴木氏: これも先ほどの話と重なる部分がありますが、自分にとって長く使えるかという観点では、「直感的に操作できるか」、「体に無理なくフィットするか」が大事です。
使いにくいものは長く付き合いにくいですし、日常的に自然に使いたくなるような視点が重要になります。エルゴノミクスのようなところも注意していかなければいけません。

そして大事なのは、その乗り物が自分の価値観やライフスタイルにどれだけ合っているかです。スペックだけではなく、自分との関係性を選ぶことが、これからの時代にふさわしい判断基準になってくると思います。

FXI: 長く楽しめるかどうかは、性能だけではなく、自分の体や生活に自然になじむかどうかで見ていくべきなのですね。乗り物そのものを見るだけでなく、自分との相性を確かめる視点が大切だと感じました。

鈴木氏: これからは内燃機関だけではなくなっていく中で、ソフトウェアの更新だけでなく、モーターやバッテリーといった車の中身そのものを入れ替えるような変化も起こり得るかもしれません。エンジンの載せ替えは考えにくくても、モーターやバッテリーの載せ替えはやりやすくなる可能性があります。一台を長く乗り続けることも可能になってくるかもしれませんし、カスタマイズの意味や内容も広がっていくかもしれません。

FXI: 現代の車は昔に比べて少しぼってりした印象を受けます。昔のようなデザインは、今では難しいのでしょうか。

鈴木氏: 安全基準が昔より厳しくなってきたことは大きいと思います。
衝突した際に衝撃を吸収するためのスペースを大きくする必要があり、結果的にドアの断面も厚くしなければなりません。人を守るための条件が増えているので、そうした形になっている面はあります。

ただ、昔から「昔の車は良かった」と言われ続けていました。
私自身も、40年前、新車に対して昔の車は方が良かったと言っていました。もしかすると今から40年たてば、2020年代の車が良かったと言っているかもしれません。

FXI: デザインの変化には安全基準の影響がありつつも、時代が変われば評価も変わっていくのですね。

鈴木氏: 今の車やバイクのデザインは、昔と比べると難易度がかなり高まっていると思います。安全や空力などの条件が増え、構造も複雑になっていますし、スタイリング的にも面構成などは一見シンプルに見えて実は非常に複雑になってきています。そうした意味では、かなり手がかかっているのです。歴史は繰り返すように、また時間がたてばあの時代は良かったと言われるのかもしれません。

FXI: 使いやすさという点で、車の試乗のときに特にチェックすべきポイントはありますか。

鈴木氏: これは少し個人的な答えになるかもしれませんが、あるとき、室内でお客様が重視するポイントを調べたことがありました。一番はシートで、その次がステアリング、シフトノブ、ドアトリムという順番だったのです。

見ていくと、人との接触ポイントが広い面積の順番になっていました。ですから、座り心地や操作のしやすさといったところは、意識していなくても本来とても大事にすべきポイントなのだと思います。

FXI: 試乗では、見た目や走りだけではなく、実際に触れている部分を確かめることが大切なのですね。

鈴木氏: 人が直接触れる部分は、日常の使いやすさと密接につながっています。そうしたところを見ていくことが、長く楽しめる一台を選ぶうえで大事だと思います。

FXI: 鈴木先生がデザインとして特に印象に残っている車やバイクはありますか。

鈴木氏:車はデロリアン、バイクはXJR1300Cです。

鈴木教授が所有していたデロリアン
鈴木教授が所有していたYAMAHA XJR1300C

撮影:鈴木 浩 教授

以前デロリアンに乗っていたことがあって、あれにはまた乗ってみたいと思います。
先ほどの使いやすさの話とは真逆になりますが、非常に乗りにくく、操作もしにくい、性能も高いわけではなくて厄介な乗り物でしたが、インパクトは他には負けないものがありました。好きな一台というより、思い出として語れる一台ですね。

バイクでは、XJR1300Cが印象に残っています。空冷4気筒で買える新車として最後に買ったもので、アメリカ駐在をきっかけに手放しましたが、正直、後悔しています。人間味があって乗っていても気持ち良かったのですが、今はもう手に入らないくらい価値も高まってしまいました。
約1300ccでほぼ一人乗り、なのにプリウスより燃費が悪い、けど愛着が湧く乗り物でした。

FXI: 使いやすさや性能だけでは測れない魅力が、乗り物には確かにあるのですね。手のかかる一台であっても、強く記憶に残り、語りたくなる存在になることがあるのだと感じました。

鈴木氏: 最新の乗り物は扱いやすくなっている一方で、昔のように面倒を見ながら接する楽しみは減ってくるかもしれません。ただ、その代わりにアナログとデジタルの融合の中から、また違った楽しみが生まれてくる可能性はあると思っています。
まだまだ、デザイナーがデザインを施さなければならないモビリティ領域は沢山あると考えています。これからも未来に向けた研究を深めながら優秀な学生を育て、デザインの力で社会に貢献していきます。

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