銀行・キャッシュレス時代の生活防衛――地域金融と決済のリスクを読む

現金とキャッシュレスの使い分け、銀行店舗やATMの減少、そしてデジタル通貨の可能性まで、金融をめぐる環境は連続的に変化しています。日常では便利さが先に見えやすい一方で、地域差や年齢差、インフラへの依存といった見えにくい論点も重なっています。

今回は、銀行の店舗・ATMの動向、金融機関の競争と地域への影響、現金とキャッシュレスの共存、中央銀行デジタル通貨の見通しを軸に、生活者の視点で整理しました。本インタビューでは、銀行とキャッシュレスの変化が暮らしに与える影響について駒澤大学の代田純教授にお伺いしました。

目次

長期では減少、直近は再編と機能分化が進みやすい

FXインフォメーション合同会社(以下FXI):銀行の店舗やATMが減っていく動きは、私たちの日常の支払いやお金の管理に、今後どんな不便や変化をもたらすとお考えですか。

代田氏:長いスパンで見ると、銀行の店舗数や銀行直営ATMが減っていること自体は間違いありません。ただ、ここ二、三年に限ると、メガバンクを中心に店舗数がやや増える動きもあります。背景には、マイナス金利政策の終了で金利のある環境に戻り、預金を集めて運用する意味が相対的に高まったことがあります。

いま増えている店舗は、かつてのような自前不動産中心ではなく、賃貸物件を活用し、状況に応じて撤収しやすい形が特徴です。

ATMも、銀行直営とコンビニATMを分けて見る必要があります。

銀行直営は減少傾向ですが、コンビニATMは増加傾向が見られます。セブン銀行ATMは、コンビニ店舗内だけでなく駅ナカなどでも増え、QR決済チャージやマイナンバーカード関連機能など、用途の広がりが背景にあります。

昨年4月からフィンランドで生活していますが、フィンランドには銀行直営のATMがそもそも存在していません。ATM自体はありますが、銀行以外の民間企業が運営し、ほぼ全ての銀行の共同利用になっています。これは、日本のATMと銀行経営を考えるうえで、重要な参考例でしょう。フィンランドでは、現金支払率が8%まで低下しており、カード支払がとても普及しています。

FXI:長期の減少と直近の増加が同時にあるのは、見る期間と対象を分ける必要があるということですね。銀行直営ATMとコンビニATMの違いを分けて考える重要性がよく分かりました。

代田氏:そうですね。大元としては、長期的に支店と銀行直営ATMが減る流れは続いているため、特に地方の高齢者にとっては、現金の引き出しや預け入れの不便が残りやすい状況です。

さきほど述べたように、海外では銀行直営ATMを切り離し、共同利用へ移る例もあり、日本も長期的には近い方向へ進む可能性があります。

FXI:なるほど、ありがとうございます。

FXI:ATMが減ることで、思わぬリスクが高まる場面はありますか?

代田氏:そうですね。高齢化が進み、インターネットバンクやスマホ利用が広がる一方で、システムトラブルやシステムダウンが起きた際の混乱リスクは高まります。デジタル化が進むほど利便性は上がりますが、その分、障害発生時の影響が大きくなる面は否定できません。
FXI:便利さと障害時の脆弱性が背中合わせになる、という理解です。普段は見えにくいリスクですが、確かに重要ですね。
代田氏:そうですね。平時の効率だけでなく、トラブル時にどう支えるかを含めて設計しないと、利用者側の不安は大きくなりやすいと思います。

FXI:なるほど、地方での実装を考えると重要ですね。追加質問ですが、地方や高齢者の多い地域では、どんな対策が現実的でしょうか。
代田氏:そうですね。地方銀行にとっては採算と地域インフラ維持のジレンマが大きく、支店や直営ATMを簡単には維持しにくい現実があります。現実的には、直営ATMを減らしつつ、コンビニATMへ機能を代替していく動きが続くと考えられます。手数料負担を伴ってでも、アクセスの受け皿を保つ方向です。
FXI:完全維持か完全撤退かではなく、代替先を使いながら維持する形が現実的ということですね。地域の暮らしを止めないための苦渋の選択だと受け止めました。
代田氏:そうですね。当面はその形での調整が続く可能性が高いと思います。

競争は短期の利点がある一方、預金移動で基盤が揺れやすい

FXI:銀行の数が多すぎる状態が続くと、地域の企業や住民にとって、どのような問題が起こりやすくなるのでしょうか。

代田氏:まず、どこまでを「銀行」と見るかで印象が変わります。狭義の銀行だけでなく、信用金庫・信用組合・農協・労金・ゆうちょ銀行まで含む預金取扱機関で見ると、数は多くなります。競争がある局面では、住宅ローンや借入金利の面で住民や企業にメリットが出ることがあります。ただ、最近は地方の金融機関で預金残高の減少が進みやすく、ネット銀行へ資金が移る動きも目立っています。金利環境の変化もあり、預金者がより有利な条件を求めて移す傾向が強まると、地方金融機関の経営が不安定化しやすくなります。

FXI:短期的には競争の恩恵がある一方で、預金流出が続くと地域金融の土台が弱くなるという構図ですね。利用者にとっても、目先の金利だけでは判断しにくい問題だと感じます。
代田氏:そうですね。預金移動が速くなった時代なので、経営の揺れが起きた場合の波及も早くなりやすい点は意識しておく必要があります。

FXI:なるほど、競争のメリットと基盤維持は別の論点ですね。

FXI:企業側・住民側から見て、一番困るのはどんな点ですか。

代田氏:そうですね。預金減少が進んで統廃合や合併が進むと、支店やATMの削減につながりやすい点が一番大きいと思います。

そうなると、企業にとっても住民にとっても、金融サービスへのアクセスが落ちる可能性があります。高齢者にとっては特に影響が出やすいです。

FXI:利便性の低下が最終的な痛みとして現れやすい、ということですね。競争が進んでも、アクセスが維持されるかを見ていく必要があると分かりました。

代田氏:そうですね。短期の条件だけでなく、地域で使える窓口やインフラがどう維持されるかが重要です。

キャッシュレス化が進むほど、非利用者の不便と排除が起きやすい

FXI:キャッシュレス決済が当たり前になる中で、現金を使い続けたい人や高齢者は、どんな点で不利になりやすいとお考えですか。

代田氏:日本は海外に比べると現金比率がまだ高く、現時点で極端な不便が全面化しているわけではありません。ただ、キャッシュレスが深く進んだ国では、トイレやロッカーのような場面までデジタル決済中心になり、現金だけでは利用しにくい局面が増えます。また、クレジットカードやスマホを持てない人にとっては、支払い行為そのものへの参加が難しくなります。スマホ本体価格や通信費、分割購入時の審査など、費用と条件の壁があるため、低所得層ほど不利が重なりやすい面があります。

FXI:決済手段の問題が、そのまま生活インフラへのアクセスの問題になるわけですね。使い方の問題だけではなく、持てるかどうかの問題でもあると理解しました。

代田氏:そうですね。利便性の向上と同時に、使えない人が取り残されない設計が必要になります。

FXI:なるほど、利便性と包摂の両立が論点ですね。追加質問ですが、現金とキャッシュレスは、今後どう共存していくのが現実的でしょうか。

代田氏:そうですね。私の見方では、キャッシュレス比率を高めるとしても、上限は70〜80%程度に抑え、現金の領域を残すのが現実的です。

理由は、システム障害だけでなく、電力供給の問題が起きた際に、決済全体が止まるリスクがあるからです。キャッシュレス先進地域でも、調子が悪いと現金で払う場面は残っています。

FXI:平時の効率を上げつつ、非常時に使える手段を残すという考え方ですね。比率の議論が、災害や停電時の備えと直結している点が印象的です。

代田氏:そうですね。共存は非効率ではなく、むしろ全体の強靭性を高めるための設計だと思います。

CBDCは給与受取の選択肢を広げうるが、普及速度は制度と既存決済に左右されやすい

FXI:中央銀行が発行するデジタルなお金が使われるようになった場合、私たちの預金や給料の受け取り方は、どのように変わる可能性があるのでしょうか。

代田氏:まず参考になるのは、PayPay等の資金移動業者口座への給与支払いの動きです。制度は始まっていますが、導入企業数の広がりは限定的という見方もできます。

CBDCが導入される場合は、給与の一部をスマホウォレットで受け取るような形がイメージしやすいと思います。既存の民間決済との違いとしては、設計次第ですが、現金に近い使い方を前提に、手数料負担のあり方が変わる可能性があります。一方で、導入時期はすぐではなく、時間を要する見通しです。

FXI:給与受取の選択肢としては連続性がありつつ、普及は制度だけで自動的に進むわけではないということですね。

利用者側の実感としては、既存サービスとの違いが明確かどうかが鍵になりそうです。

代田氏:そうですね。既存の民間決済が十分に普及している環境では、新しい仕組みが後から入っても広がりに時間がかかることがあります。

海外でも、先に民間決済が深く普及した後ではCBDCの浸透が緩やかな例があり、日本でも同様の可能性はあります。導入の可否だけでなく、どの順番で何が広がるかが重要です。

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