持続可能な地域づくりは、理念や計画を掲げるだけでは前に進みません。
重要なのは、それを誰が担い、どのように現場で実行していくのかという視点です。
本インタビューでは、山陽学園大学の酒井先生に地域づくりを志した原点から、計画を「実践」に変えてきた工夫、そして今後の地域づくりの可能性について伺います。

山陽学園大学 地域マネジメント学部 教授
酒井 正治 / Masaharu Sakai
【プロフィール/略歴】
山陽学園大学地域マネジメント学部教授。専門は「持続可能な地域づくり」。京都大学大学院人間・環境学研究科修了。日本総合研究所、京セラなどを経て、現在に至る。
持続可能な地域づくりを志した原点――計画を「実践」に変える問題意識
FXインフォメーション合同会社(以下FXI):まず、酒井先生が持続可能な地域づくりを研究テーマとして選んだきっかけや、関心を深めることになった経験について教えてください。
酒井氏:私は大学院で環境経済学や環境政策論を専攻していました。そこで学んだことを、実際の社会で実践したいと考えるようになり、特に環境と経済が両立した地域づくりに取り組みたいという思いを持つようになりました。
その中で、日本総合研究所というシンクタンクで、環境・エネルギー分野のコンサルタント募集があり、1997年から地域づくりの仕事を始めました。
1997年は、京都で気候変動枠組条約締約国会議、いわゆるCOP3が開催された年でもあり、地球温暖化防止に向けた議論が世論としても非常に活発になっていた時期でした。私は関西にいたので、京都や大阪を中心に、さまざまな関連イベントが行われているのを目にしていました。
自治体を見ると、総合計画という上位計画があり、その下に分野別の計画がぶら下がる形になっています。環境やエネルギー分野では、環境基本計画やエネルギービジョンといった個別計画がありますが、私自身、コンサルタントになるまで、そうした計画の存在を知りませんでした。
FXI:ちょうど社会全体で関心が高まっていた時期だったんですね。
酒井氏:本来、地域の計画に書かれた内容は地域の人たちが実施していくものですが、多くの市民は、自分の自治体にそうした計画があること自体を知らない状況にあります。計画書は自治体の倉庫に積まれ、ほとんど読まれていないのではないかと感じ、大きな疑問を持ちました。
自分の仕事として自治体の計画づくりに関わる中で、誰も読まないようなものを作っても意味がないのではないか、という思いが強くなったのです。
そこで改めて調べていくと、地球温暖化問題に取り組むには「地球規模で考え、地域で行動する」、いわゆる「Think globally, Act locally.」が重要だと分かりました。
FXI:そのスローガンは聞いたことがあります。実際、どのような思考・行動を指すのでしょうか?
酒井氏:例えば、スウェーデンなど北欧の自治体では、交通、エネルギー、ごみ問題などテーマ別の円卓会議を設け、市民や地域の事業者が議論し、具体的なプロジェクトを生み出しながら主体的に取り組む「ローカルアジェンダ」が実践されていました。
こうしたローカルアジェンダづくりを日本でも進めたいと考えるようになり、京都市などで提案や活動を行っていた「環境市民」という京都の環境NGOの活動にも参加しました。また、当時ローカルアジェンダに熱心に取り組んでいたスウェーデンのベクショー市などの自治体を訪問し、実際に話を聞くことで、その取り組み方を学びました。
これが、私が持続可能な地域づくりに関わるようになった大きなきっかけです。
FXI:ありがとうございます。もし当時に戻れるとしたら、最初からやり直したいアプローチなどはありますか。
酒井氏:当時は20代だったこともあり、「自分が変えてやる」という気持ちで取り組んでいました。もちろん、業務経験が浅く、複数のプロジェクトを抱えながら時間管理がうまくできず、クライアントに迷惑をかけてしまったことはありましたが、大きな後悔はありません。やり直したいと思う点は特にないです。
研究成果を地域に実装する際の要点と課題とは
FXI:続いて、研究で得た考え方を地域の現場で活かす際に、特に大切にしてきた視点や工夫について教えていただけますか。
酒井氏:日本の自治体で市民参加による計画策定に取り組んできましたが、そこで重視してきたポイントの一つが、地域のキーパーソンを見つけることです。
スウェーデンなど海外の自治体を見ても同様でしたが、例えば環境団体の事務局長や、大きな雇用を持ち環境へのインパクトも大きい地域事業者、その環境部門の責任者など、影響力のある人たちを見つけていきます。そうしたキーパーソン同士をつなげ、議論の場をつくり、パートナーシップとして一緒に取り組んでいく。その計画づくりに参画してもらうことが非常に重要だと感じています。
キーパーソンが動けば地域も動くというのは、海外の事例を見ても明らかだったので、その点を意識して取り組んできました。
FXI:実際に日本で取り入れてみてどうでしたか?
酒井氏:予想外にうまくいった事例としては、人口1万人程度の小さな自治体でエネルギービジョンの策定に携わった経験があります。町長が非常に熱心で、計画の議論に町長自身が参加し、そこで出た地域にとって良さそうなプロジェクトをすぐに予算化し、翌年度から実行に移せたことがありました。
一方で、人口20万人や50万人規模の自治体になると、意思決定に時間がかかり、市長と直接話す機会も少なくなります。そうした中で、私がやりがいを感じたのは、実行力のある小さな自治体でした。
その際には、地域のリーダーに対してデータや事例、海外を含む先進事例を調べて提供したり、議論のテーマに合わせて、例えばバイオマスエネルギーの話題が出れば、その分野に詳しい専門家を地域外から招いてアドバイスをもらったりしました。
また、日常的な会話の中でやる気が出るような言葉をかけ、行動を促すことも心がけていました。
私自身スポーツ経験があるので、チームで取り組む際にやる気を引き出す声かけのような感覚で、行動を促しながら活動が広がるよう盛り上げていく工夫をしていました。
FXI:データ提供や、いわば地域のブレーンとなる人を集めて、応援する規模を広げていくことを意識していたのですね。
酒井氏:もう一つ特徴的だと思っているのは、地域で仕事をする中で、仕事仲間というより友達のような関係になっていくことです。自治体の職員や企業の担当者、地域で議論に関わるさまざまな方々と早い段階で打ち解け、「こんなことをしよう」「あんなことをしよう」と企画が生まれやすい場をつくれていると感じています。
部活動のような雰囲気で、楽しみながら地域の将来を考えていく。そうした場ができると、次々と取り組みが生まれていくので、自然とそうしたスタイルで関わってきました。
FXI:ありがとうございます。逆に、地域の方と信頼関係を築くのに時間がかかったケースでは、どのようなポイントがありましたか。
酒井氏:例えば、神奈川県の中規模自治体、大和市で取り組んだ際には、委員会の中に自己主張が非常に強く、自分の意見を強く押し出す方がいらっしゃいました。その方は自治体側もよく把握している存在でしたが、そうした方がいると議論が難しくなります。
また、人口20万人規模の中規模自治体は、予算も限られており、キーパーソンも見つけにくく、取り組みづらいと感じました。小さな自治体の方が動きが良い一方で、中規模自治体では、半年から1年の計画策定期間の中で、うまく取り組みが生まれなかったケースもあります。これが一つの失敗例です。
一方で、北九州市のような規模になると状況は異なります。環境局の局長が国との強いネットワークを持っており、議論に応じて国から予算を獲得し、大規模な事業として進めることができました。政令指定都市クラスになると、現場に権限があり、実際に動く計画がつくれるケースが多かったです。
FXI:小規模自治体か、政令指定都市クラスは比較的うまくいくケースが多く、中規模自治体は難しさを感じることが多かったのですね。
理論的には正しくても、現場では受け入れられなかった事例はありますか。
酒井氏:最終的には受け入れられましたが、当初は反対を受けた事例があります。
現在、私は岡山の大学に所属しており、岡山県玉野市で営農型太陽光発電、いわゆるソーラーシェアリングの取り組みを行っています。農地の上に太陽光発電を設置し、下ではイチジクやライチなどの果樹栽培を行うものです。
担い手不足で荒れつつある農地を有効活用し、CO₂削減にもつながり、新たな農業の担い手を増やすという地域課題の解決にもなるため、反対は出ないだろうと考えていました。
しかし、実際には住民の反対がありました。太陽光パネルの反射光が住宅内に入り、生活に支障が出るのではないかという懸念です。最初の住民説明会では強い批判を受け、なぜここでやるのかという反対もありました。
これは想定が甘かった部分です。
FXI:最終的に受け入れられたとのことですが、どのようにアプローチしたのでしょうか。
酒井氏:2回目、3回目と住民説明会を重ね、データやシミュレーション結果を使って反射が起こる時間帯や影響が限定的であることを示しながら理解を得ました。しかし、3〜4か月、最終的には半年ほどかかりました。
また、土地所有者との契約に関しても、内容の説明が十分でないと感じられ、なかなか合意が得られない場面もありました。そうした点で、地元の方々と摩擦が生じることもありました。
現在は、ネクストイノベーション株式会社(玉野市)と京セラコミュニケーションシステム株式会社(京都市)が事業主体となり、玉野市で共同で事業を進めています。ここ2〜3年で14か所ほど、営農型太陽光発電を段階的に導入していく予定です。関東では千葉県が有名ですが、岡山も日照条件が良く、「晴れの国岡山」と言われる地域ですので、こうした取り組みをより進めていきたいです。
市民参加が地域を動かす――再生可能エネルギーと産官学連携が生んだ“担い手”の変化
FXI:再生可能エネルギーや産官学連携の取り組みを進める中で、地域の事業者や市民にどのような変化が見られたと感じているか、教えていただけますか。
酒井氏:先ほどお話しした、当時人口約1万人だった滋賀県の新旭町(現在は市町村合併により高島市)での取り組みが、一つの例です。
この町では、市民参加によるエネルギービジョンの策定を行いましたが、参加された市民委員の方々が非常に熱心でした。ビジョン策定後も、翌年に環境自治体会議や菜の花サミットといった、全国から人が訪れる環境関連イベントを町長が誘致し、その運営の中心を市民委員が担いました。
さらに、市民が資金を出し合って太陽光発電設備を設置する「市民共同発電所」の取り組みも行われました。個人が単独で出資するのではなく、複数の市民が一定額ずつ出し合い、公園に設置する形です。これも市民主体で再生可能エネルギーを増やそうという企画でした。
このように、計画策定に参加した市民が、その後の地域づくりの担い手となり、原動力になっていく姿が見られました。市民がエンパワーメントされていくという変化は、市民参加型で計画づくりを行った成果だと感じています。
スウェーデンでのローカルアジェンダの取り組みでも、計画策定に市民が加わることで当事者意識が生まれ、計画が絵に描いた餅にならず、実行に向けて推進されていくという理想的な姿がありましたが、日本でもその一端が見られたという点が成果だと思います。
FXI:それはすごいですね。
酒井氏:また別の例として、大阪府枚方市でエネルギービジョンの策定を担当した際には、策定後に「ひらかた環境ネットワーク会議」という、環境・エネルギー施策の推進組織を立ち上げました。ここでも、ビジョン策定に携わった市民委員の方々が中心スタッフとして活躍されました。
枚方市は京阪電車沿線に位置し、近隣にはパナソニックの本社があることから、同社出身の方々が多く居住しています。定年後に地域づくりの会議へ参加される方も多く、業務スキルの高い方々が地域づくりの担い手となる場にもなりました。
高齢化が進む中で、定年後も市民が地域づくりに関わり、活躍できる仕組みをつくることは重要で、その力を地域に生かすことができたと実感しています。
FXI:ありがとうございます。現在取り組んでいる玉野市についてはどうでしょうか?
酒井氏:玉野市でのソーラーシェアリング事業では、地元企業であるネクストエネベーションと、私の前職である京セラグループを私が橋渡しする形で連携しました。設備は京セラグループが担当し、下の農業は地元企業が行う共同プロジェクトです。
事業が複数箇所に広がることで、地元事業者の事業拡大や雇用創出、遊休農地の有効活用、温暖化防止につながり、地域の環境と経済の両立に貢献する事業になっていくと考えています。成果はこれから現れてくる部分も大きいと思っています。
産官学連携の点では、農地を活用した事業を進めるにあたり、玉野市の農業委員会との合意形成が必要でしたが、市役所の行政の方々が協力してくださり、それぞれが役割を果たす形で進めることができています。
FXI:ありがとうございます。数字で測れる変化も多いと思いますが、逆に数字では測れない変化として、特に大きく感じているものはありますか。
酒井氏:私は地域マネジメント学部で指導していて、学生を地域づくりの現場に連れて行き、1〜2か月ほど実習を行う機会があります。
その中で、もともと人とのコミュニケーションが苦手で、大学内でも孤立しがちだった女子学生が、地域づくりの現場で大きく変化する様子を見てきました。
岡山市の北長瀬という新興住宅地では、転勤族が多く、子育て中の若い母親が相談相手や友人を持てず、孤立しやすい状況があります。そこで、地域全体で安心して暮らせるよう、保育士や助産師、栄養士が関わり、相談や食事、遊びを通じた場づくりを行っている「たねっこ」という地域子育て支援事業があります。
学生はそのスタッフとして関わるのですが、最初は子どもが苦手だと言っていた学生が、次第に子どもたちから慕われ、他のスタッフからも信頼される存在になっていきます。地域づくりの現場に入ることで人とのつながりが生まれ、学生自身が大きく成長していく姿を見ています。
こうした変化は数字では測れませんが、地域づくりを通じて学生が成長するという点は、非常に大きな成果だと感じています。
未来から考える地域づくり――小さな行動が社会を変える力になる
FXI:最後に、地域活性化や社会貢献に関心を持つ社会人や学生に向けて、今後の地域づくりの可能性や、関わるうえで意識してほしいことについて、どのようにお考えでしょうか。
酒井氏:将来あるべき姿、いわゆるビジョンを持つことが重要だと考えています。
例えばSDGsでは2030年までに持続可能な社会を実現するという目標がありますし、さらに先では2050年のカーボンニュートラル、CO₂排出量を実質ゼロにするという目標も国際的に掲げられています。そのとき、地域はどのような姿であるべきか、そうした理想像を掲げ、その実現に向けて何をすべきかを考え、実行していくことが大切です。
この考え方は「バックキャスティング」と呼ばれるもので、未来のあるべき姿から逆算して、現在やるべきことを考える思考法です。SDGsも、このバックキャスティングの考え方で作られています。具体的な方法がすべて明確でなくても、2030年にはこうした状態でなければ持続可能ではない、という必要性が示されています。
FXI:地域づくりや社会課題への取り組みも、こうした視点で進めていく必要があるのですね。
酒井氏:また、社会課題や地域課題は、貧困をなくす、誰一人取り残さないといった目標に象徴されるように、解決のハードルが高く感じられがちです。「自分が何かやってもどうにもならない」と思ってしまうこともあるかもしれません。しかし、ぜひ自分とのつながりを考え、自分事として捉えてほしいと思います。
例えばチョコレートであれば、その原材料であるカカオは、ガーナなどアフリカの国で小学生が学校に通わず児童労働として安価に生産している場合があります。私たちはそれを知らずに食べているかもしれませんが、実際には自分たちの生活とつながっています。
こうした背景を知ったうえで、どうしたらよいかを考え、エシカル消費など、環境や社会、地域に配慮した消費行動につなげていくことができます。小さなことからでも、自分事として行動してみてほしいと思います。
それを諦めずに続け、さらに自分一人だけでなく、他の人や企業、自治体など、より大きな主体とつながって取り組んでいくことで、状況は変わり、成果が生まれてくることもあると思います。
FXI:普段の消費活動でも環境や社会、地域に関われるのですね。
酒井氏:特に若い世代にとって、日本では「社会は変えられる」という感覚を持ちにくいかもしれません。スウェーデンの小学校の教科書には、「社会には法則や規則があり、それに従わなければならない。しかし社会は変化するものであり、法律や規則も変えられる。変えたいと思うなら、そのために努力すべきだ」といった内容が書かれているそうです。
スウェーデンでは選挙の投票率が約80%である一方、日本は約30%程度と低く、社会を変えられるという意識が日本では相対的に低いのではないかとも感じています。
一人ひとりの行動は小さくても、社会全体が変わるきっかけになり得ると信じて、努力やチャレンジを続けてほしいと思います。社会課題解決を目的とした起業やスタートアップも、まだ日本では小さいかもしれませんが、重要な役割を果たす分野です。
アメリカと日本の企業価値を比べると、GAFAMのような巨大スタートアップの存在がアメリカ全体の企業価値を押し上げています。日本もスタートアップが成長すれば、1990年代以降伸び悩んできた企業の姿を変える可能性があります。
社会を変えようとするチャレンジこそが、そのポイントになると思うので、ぜひ挑戦してほしいです。
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