財務諸表から読み解く投資のリスク管理と、人生の価値を最大化する思考法

新NISAの普及により投資が身近になる一方、SNSの情報や株価の動きに流されるリスクも増えている。阪南大学の中條良美教授は、財務諸表を通じて企業の「実力」を正しく見抜く重要性を説く。本インタビューでは、大手飲食チェーンの分析事例を通じ、初心者が陥りやすい罠や、人生の価値を最大化するための思考法について詳しく伺いました。

目次

株価の「期待」と財務データの「裏付け」

FXインフォメーション合同会社(以下FXI): ニュースや株価の動きだけを見て投資判断をしてしまう人も多いですが、企業の中身を知るうえで、財務諸表を読むことでしか分からない重要な情報にはどのようなものがありますか。 

中條氏:多くの初心者は、SNSの「買い」という情報や過去の株価チャートに影響されて投資を始めますが、これは非常に危険なことです。株価は将来への期待を先取りして動くものですが、その期待が「過大」か「過小」かを客観的に判断する材料こそが財務諸表です。

具体的な事例として、海外展開で注目される大手飲食チェーンA社を見てみましょう。

損益計算書(PL)では「当期純利益」が前期より大幅に増えていることがわかります。しかし、これだけでは実力は測れません。注目すべきは貸借対照表(BS)です。A社の場合、資産全体の約4分の1を商標権などの「無形固定資産」が占めており、ここから海外ブランドの価値、つまり積極的な海外展開の実態が数字として裏付けられます。

しかし、その「裏面」も見る必要があります。

海外M&Aには多額の資金が必要で、A社は長期借入金や社債などの負債も大きく膨らませています。

折からの金利上昇で、将来利払いが膨らみ、資金繰りが問題になる可能性があります。利益の伸びといった「表面」だけを見て、将来もうまくいくだろうと短絡的に判断するのは危険であり、BSとPLを組み合わせて成長の「健全性」を確認することが不可欠です。

「潰れない会社」を見極めるための最優先チェック項目

FXI:財務諸表が苦手な人でも、「この会社は大丈夫かどうか」を判断するために、最低限ここだけは見ておいたほうがよいというポイントがあれば教えてください。 

中條氏:会社が大丈夫かどうかを判断する最大の基準は「潰れないか」であり、まずチェックすべきは負債の割合です。運用している資産のうち、どれくらいを借金に依存しているか(負債比率)を知ることで、倒産のリスクを推測できます。

次に重要なのが、「勘定足りて銭足らず」という言葉がある通り、利益が実際に「現金」として確保されているかを確認することです。利益が出ていても現金の裏付けがなく、事後的に破綻する「黒字倒産」のケースは少なくありません。

会計上の利益は数字を「盛る」ことができる側面があるため、キャッシュフロー計算書(CF)の「営業活動によるキャッシュフロー」を見て、実際に現金が確保できているかをダブルチェックすることが、安全な投資には不可欠です。

さらに一歩進んだ方法として、売上・利益・現金・資産・負債といった主要項目を過去15年分ほどの時系列グラフで並べてみることをお勧めします。

利益が伸びているのに資産だけが突出して膨らんでいるなど、各項目のバランスが崩れて「変な動き」をしている企業は、注意信号と捉えるべきです。

SNSや市場評価が消費者心理に与える影響

FXI:消費者の意思決定は どのような情報やきっかけによって、最も影響を受けやすいのでしょうか? 

中條氏:人は「この株でこれだけ儲けた」といったSNSの目先の明るい情報に非常に影響されやすいものです。

また、アナリストによる「目標株価の引き上げ」や「買い推奨」といった強気のニュースも、投資を後押しする大きなきっかけとなります。

しかし、こうした市場の期待感は時に客観的な価値を大きく超えてしまいます。

私の研究で、財務諸表から算出した「客観的な価値」と「実際の時価総額」を比較したところ、近年その乖離(ミスマッチ)が激しくなっていることが分かりました。

例えばある銘柄では、本来の価値が6,000円程度の水準にあるのに対し、時価総額ベースでは14,000円を超えて評価されているケースもあります。

私自身、昨年末には保有していた株式を一旦すべて売却し、利益確定しました。

現在の日経平均全体を含め、客観的価値と比較した実際の株価の上昇ピッチがあまりに早すぎると感じているからです。市場の熱狂に流されず、常に「数字の裏付けがあるか」と冷静に問い直す癖をつけることが、投資においては非常に有益です。

人生の「機会費用」を捉え、自らの価値を最大化する

FXI:財務分析や消費者行動の知識を身につけることで、投資や仕事、日常生活の意思決定はどのように変わっていくとお考えですか。 

中條氏:こうした知識は、自分自身の生き方における「トータルの価値を最大化する」という思考に直結します。

例えば、私の授業を聞いている学生に「今、時給1,000円でアルバイトをすれば90分で約1,500円稼げる。この授業にそれ以上の価値がなければ、聞く意味がない」と話すことがあります。

これは「機会費用(機会損失)」という考え方です。投資も同様で、預貯金として寝かせておくだけならリスクはないと思われがちですが、物価上昇(インフレ)によって、たとえば100万円の預貯金が1年間で数万円分の価値を失うリスクがあります。現在選択している資産が、自分にとって最大の利益をもたらしているのか、を問い続けることが重要なのです。

また、リスクとの付き合い方を学ぶことも重要です。私は、ボラティリティ(価格の振れ幅)が非常に大きい個別銘柄を深追いするよりも、リスクを抑えられるインデックス投資(分散投資)を基本としています。

一方で、退職後の資金を補うために、米国債の一種である「ストリップス債」も活用しています。

これは現在約44%程度の価格で買った債券が、利息はない代わりに17年後に額面の100%で返ってくる仕組みで、為替リスクを除けばある程度の資金効率と確実性を両立させた選択です。

生きていく上でゼロリスクを求めるのは不可能です。

数字と仲良くなり、リスクを正しく評価し、自分の年齢やライフスタイルに合った最適な資産選択(アセットアロケーション)を行うリテラシーこそが、豊かな人生を支える土台になると考えています。

FXI:ありがとうございました。

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