障害や認知機能に不安がある方への支援において、家族はどう向き合うべきだろうか。
沖縄国際大学の上田幸彦教授は、本人と「対等な・水平な関係」を築き、過剰な支援を控える大切さを説く。AIの具体的な活用術から、介護者の心を守るマインドフルネスまで 。家族が共倒れせず、穏やかに日々を過ごすための指針を聞いた。

沖縄国際大学 総合文化学部 人間福祉学科 教授
上田 幸彦 / Yukihiko Ueda
【プロフィール/略歴】
所属大学学科名:沖縄国際大学総合文化学部人間福祉学科
役職:教授・心理相談室室長
資格:博士(心理学)、公認心理師・臨床心理士
学会:日本心理学会、日本心理臨床学会、日本認知行動療法学会、日本健康心理学会、日本ストレス学会
略歴:早稲田大学大学院修士課程を修了後、国立福岡視力障害センターにて11年間勤務。その間アメリカにてリハビリテーション心理学の研修を受ける。久留米大学大学院心理学研究科博士課程を経て、2007年より現職。大学・大学院での教育・研究、公認心理師養成を行いながら、地域において高次脳機能障害、筋ジストロフィー、難病を抱える方々への心理支援・研究を行っている。
支援における「対等な・水平な関係」と「自立の尊重」
FXインフォメーション合同会社(以下FXI):障害や認知機能に不安のある方と接する際、家族や支援者が意識すべき根本的な姿勢は何でしょうか。
上田氏:まず重要なのは、「障害によって本当にできなくなっていることだけ」を支援するという視点です。
本人が本来できることまで手を出してしまうことは、必ずしも良い支援とは言えません。その背景には、支援の「立ち位置」の問題があります。
「やってあげている」「してもらっている」という意識は、知らず知らずのうちに上下の階層を生みます。これが続くと、支援を受ける側は「助けがないと何もできない自分」という見方を強めてしまい、申し訳なさや引け目を感じるようになります。
支援する側とされる側が対等であるという意識を持つことが、本人の自尊心を守ります。「何ができて、何ができないのか」を家族だけで判断するのは難しく、迷いが生じます。
医師やリハビリ専門家などの客観的な意見を聞き、具体的な症状に基づいた適切な「お手伝いの線引き」を学ぶことが、対等な関係を維持する助けになります
状況の変化に伴う調整と、支援者の「抱え込み」防止
FXI:進行性の病気や、逆にリハビリで改善が見られる場合、関わり方はどう変えていくべきでしょうか。また、悪化していく状況を家族はどう受け止めるべきですか。
上田氏:基本的には「状態に合わせて援助量を増減させる」という柔軟な対応が必要です。
改善が見られれば、あえて援助を減らすことが本人の自立を促します。一方で、症状が悪化し、支援が重くなる場合には、以下のメンタルケアが不可欠です。
「全部自分で」という思い込みを捨てる
FXI:家族の誰か一人に介護の負担が集中してしまう状況を防ぐには、どんな視点が大切だとお考えですか?
上田氏:家族の一人がすべての責任を負い、抱え込んでしまうケースが非常に多いです。
家族内で役割を分担し、さらにヘルパーなどの公的な支援機関を「当たり前に」活用する姿勢が、共倒れを防ぐ鍵となります。
外部とのつながりと情報の共有
FXI:家族だけで抱え込んでしまいがちなケアの問題において、外部とのつながりが果たす役割を教えてください。
上田氏:同じような状況にある他の家族や患者会などの団体とのつながりを保っておくことは、精神的な孤立を防ぐために極めて重要です。
状況が悪化していくプロセスにおいて、同じような経験者からのアドバイスは大きな安心感につながります。
AI技術の活用と「情報の精度」への注意点
FXI:AIが普及する中で、介護や福祉の現場、あるいは家庭での向き合い方はどう変わると予想されますか。
上田氏:AIは、専門家が身近にいない時でも「どう支援すべきか」を教えてくれる非常に便利な存在になります。
しかし、活用する際には「問いかけの正確性と具体性」が重要になります。
また、AIの回答を「絶対的な正解」と思い込まないことが大切です。AIは一般的な情報には強いですが、目の前の家族の個別具体的な状況に完全に合致しているかは不明だからです。
例えば「認知症への対応」と大雑把に尋ねるのではなく、「アルツハイマー型」なのか「前頭側頭型」なのか、医師から伝えられた正確な病名を使って質問しなければ、誤った対応をとってしまうリスクがあります。
AIを使いこなすためにも、まずは専門家から正しい診断名を聞き出すことが前提となります。
家族の人生を守るための「マインドフルネス」
FXI:最後に、長く介護や支援と向き合っていく家族に向けて、具体的なアドバイスをお願いします。
上田氏:最も伝えたいのは、「支援のために自分の人生を犠牲にしないでほしい」ということです。
誰か一人の犠牲の上に成り立つ支援は、長続きしません。私自身の経験からも、心の安定を保つために有効な手法があります。
私自身が、家族の危機を乗り切る際に大きな助けになったのがマインドフルネスです。
介護をしていると、「これから先、どうなってしまうんだろう」と将来の不安に心が支配されがちです。
マインドフルネスは、意識を「今していること」に引き戻してくれます。「今、この瞬間のケア」に集中し、それを淡々と繰り返していく。
この姿勢が身につくことで、精神的に追い込まれることを回避し、穏やかな気持ちで家族と向き合い続けることが可能になります。
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